エッセイ・ふだん着のスコットランド
1章 スコットランドへようこそ
(余談)温室効果
スイカの日が到来!
ここまでの話は平均的なスコットランドの気候について書いたのだが、大気汚染による地球環境の温暖化に歯止めがかからないと、どうやら今後スコットランドの平均的な気候というものも大きく変わってしまう可能性があるらしい。
「スコットランドは寒いのか?」という話を書いたのは1994年の夏だった。雑誌掲載は95年1月号だ。
その95年の夏、スコットランドを未曾有の酷暑が襲った。気温は連日うなぎ昇りでついに30度という、スコットランドではめずらしい高さに達した。海岸は水着姿でごった返し、日光浴の度が過ぎてやけど状態になり病院に担ぎ込まれる人が続出した。
東部地方ではなんと水不足が懸念され、ホースの使用が禁止になった。我が夫は心ゆくまでスイカをほおばった。
こんな状態が何週間も続いたので、暑い夏に慣れないスコットランド人はついに「これでは暑すぎる、夏バテで何もできない」と文句を言い始めるようになり、涼しい風が雨を運んできた時にはほっと一息ついた。
同じ年の冬に、今度は未曾有の酷寒がスコットランドを覆った。
12月中旬にどか雪が降り、それから気温がどんどん下がった。寒さのため雪が溶けず、夜になると踏み固められ凍てついたた雪の上にざらめ砂糖をかけたような霜が降りた。雪が積もったままクリスマスが来て、気温はさらに下がり、ついにはマイナス二十度を切った。
グラスゴーを流れるクライド河に氷が張ったという記事が新聞の一面を飾った。
寒さは一月に入ってようやくゆるんだが、クリスマスから新年にかけて里帰りで空き家になっていた家では、配水管が凍りついて割れ、気温が上がるとともにそれがとけて家中を水浸しにするという被害が続出した。
あまり寒くない冬に慣れているスコットランド人は、家を空ける時に凍結防止の措置を講じておくことを考えもしなかったのだ。
温室効果で寒波が来るって?
科学者の話によると、この異常気象は二酸化炭素による温室効果の結果であり、今後はもっと増えるのだという。
ちょっと待て、温暖化で酷暑が来るというのはわかるが、寒波まで温暖化のせいとはどういうことだと首をひねるのもごもっとも、私もそう思った。
科学者の説明はこうである。
スコットランドの冬が高緯度のわりに温暖なのは、温かいメキシコ湾流が周囲を流れているおかげである。この海流は冬になると北に寄る傾向があるらしいが、その原因はバルト海の凍結なのだそうだ。氷ができる時には周囲の水を引っ張り込む力が発生する。この力によってメキシコ湾流は北に向かって引っ張られ、スコットランドを暖流で包む。
ところが温室効果が進むとバルト海が凍らない。従って冬季のメキシコ湾流の流れは現在よりも南に下がり、その結果スコットランドが寒流にさらされて、冬の気温が今までよりずっと低くなってしまうというのである。
温暖化時代の新産業
それでは地球温暖化が進むとスコットランドは夏には海水浴、冬にはスキーにぴったりの理想的な周年リゾート国に変わるのだろうか?
あいにく、そううまくはいかないらしい。
温室効果のもう一つの結果として、ただでさえ充分に多いスコットランドの雨量がさらに増加するという予測もあるのだ。太陽がさんさんと輝かなくては理想のリゾート地とは呼べない。しかも増えた雨量は集中豪雨としてまとまって降る傾向があるだろうという。川が氾濫して洪水が増えるというのだ。これもかなり困る。
いや、願ってもないチャンスだという人もいる。
お隣りのイングランドでは毎夏のように水不足が続いている。温暖化がすすむにつれ、イングランドの水枯れはいっそうひどくなることが確実だ。そこで、今後も水には恵まれ続けると予想されるスコットランドに、理想のビジネスチャンスが生まれる。
イングランドに向かって壮大な配水パイプ網を建設し、スコットランドを代表する特産物、水を輸出するのだ。北海油田よりハイランドの湖の方が大きな財源になる日が来るかもしれない。
他人の窮状を利用して金儲けなんてあまりにあくどい話じゃないかって? 相手がイングランドならそんなこと気にもならないのが、スコットランド人というものなのだ。(注:『5章 スコットランド人って何だ?』参照)
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